発語がないお子様の対応

「どうしても言葉を話してほしいんです」

 発語がまったくない自閉症やダウン症のお子様を持つお母様から、しぼりだすように聞かれる台詞。胸が痛くなります。親としては子どもの言葉が聞きたい、それ以上に、絵カードやジェスチャーだけでは要求がうまく伝えられず、いらいらしたり泣いてしまったりする子どもをどうにかいしてあげたい、そういう気持ちが強いのだと思います。

 発語は1歳頃、単語からスタートすると言われています。それから徐々に増えていき、2歳で2語文、3歳で3語文、というのが定型発達の例です。そして障害をお持ちのお子さんは、この例に倣わないことが当然多くなります。

 では、定型発達の子どもはどうやってことばをおぼえるのか。実は1歳での単語の発話の前に、いろいろな下準備があります。たとえば指差し、物を手渡したりもらったりという「やりとり」などです。

 そうした中で、たいていの親御さんは、やりとりに対して「ことばがけ」をプラスしています。子どもが指さしをすれば「あ、ワンワンがいるね」と子どもの気持ちを代弁してあげたり、物のやりとりをするときは「ちょうだい」「ありがとう」と言葉を重ねたり。まだ発語がない頃、子どもは自分のジェスチャーややりとりを通じて、そこに乗ってくる「ことば」を聞いています。

 多くの療育施設でまず目指すのは「やりとり」を成立させることです。具体的には「いや」「だめ」という拒否の仕方をカードやジェスチャーで教えるところが多いのではないでしょうか。やりたくないこと、嫌な気持ちを表明することは、とても大切だからです。もちろん、一足飛びではできませんので、まずは施設にきたら荷物を自分のロッカーに片付ける、出席シールを貼る、といった簡単なルーティーンを守るところからやるかもしれません。

 そしてこの「やりとり」や「ルーティーン」が、発語の準備にもつながります。そうしたしっかりとしたやりとりやルールを、まずはジェスチャーやカードで成立させ、そこに言葉を上乗せ(対提示と言います)していくことで、言葉の習得が進んでいきます。逆にいえば、やりとりが成立していないと、発語(コミュニケーション)というのは育ちにくいことがあります。

 なぜならことばは「人とやりとりするための道具」だから。他人との関わりを持つことが苦手な自閉症のお子さんや、ときに頑固なことがあるダウン症のお子さんの場合、この「誰かとのやりとり」を楽しいもの・便利なものと認識してもらうことが、その先にある言葉の習得を進めやすくします。

 カードやジェスチャーでのやりとり、確立されたルーテーィンを、療育施設でだけ使用している方がいらっしゃるなら、とてももったいないです。ぜひ自宅にも持ち込んでください。そしてそのたびに親御さんの発語を、そこに上乗せしてあげてください。